環境経営

EA21企業のトップに聞く(2)
環境課題の解決で
未来のファンづくり

株式会社トリドールホールディングス
代表取締役社長 粟田貴也
粟田貴也社長の写真

「手づくり・できたて」のうどんをセルフ形式で提供することでお馴染みの「丸亀製麺」。臨場感のある店内で「飲食体験」を提供したことで、需要の開拓に成功し、国内に約850店を構えるまでに成長した。新型コロナウイルスの影響でニューノーマル時代に突入した今、創業者が見据えるのは新たな需要の掘り起こしだ。「潜在的な需要を掘り起こさないと飲食店の未来はない。需要の掘り起こしには、環境や社会課題へ取り組むことも有効だ」という仮説を持つ。

新型コロナウイルスの影響で外食業界は大打撃を受けた。ニューノーマル時代の需要を掘り起こすため、「丸亀製麺」などを展開するトリドールホールディングスはSDGsを経営に統合した。同社の粟田貴也社長はこう語る。

「コロナ禍ではいかに平時の社会が尊いか痛感した。少なくとも1年以上はこの状態が続くだろう。収束した頃には、もう前のような生活は送れなくなり、新たなライフスタイルが根付いているはず。そしてもちろん、その時には、環境や自然、生態系などの資源に配慮した企業でないとステークホルダーは受け入れないだろう」

重点課題として挙げた、「食品ロス削減」「リサイクル率向上」「CO₂排出量削減」の3つの領域で意欲的な目標を掲げ、その達成のためのレバレッジとしてエコアクション21を2019年に導入した。

西東京の10店舗で実証実験

環境負荷を目指した体制構築へPDCAを回しながら取り組めることと、環境省からのお墨付きを得られること、さらには食品事業者向けのガイドラインもあり取り組みやすく、コストの最適化が図れることをメリットに感じたのが導入した狙いだ。

環境負荷低減を実現するため、西東京にある丸亀製麺10店舗で実証実験を行っている。「食品ロス削減」「リサイクル率向上」「CO₂排出量削減」で定めた目標の達成を目指し営業している。

環境配慮型の店舗になるべく、これまでに培ったノウハウを体系的にまとめた「営業マニュアル」を独自に作成したり、省エネにつながる機器の導入のほか、企画、開発まで手掛けた。その中で、有効なものを検証して、ほかの店舗にも展開していく考えだ。

2022年度には丸亀製麺全店舗で、2023年度には炭火焼き鳥屋「とりどーる」やとんかつ・かつ丼の「豚屋とん一」など同社のブランド全店での導入を目指す。

粟田社長は、エコアクション21を取得したことによる最大の成果として、「マニュアルや機器の導入ではなく、本社の社員が店まで出向き、環境の未来について説き、将来像を共有できたことにある」と述べる。

「いくらハードを揃えたところで、人の心までは動かせない。地球環境の未来に対して警鐘を鳴らし、進むべき方向を語り合うことで初めて機能し出したと実感している」

利己主義では「ファンつくれない」

子ども向けの食育事業「まるごとまるがめ体験教室」

各店舗では地域住民がパート・アルバイトとして働いている。「自分たちの地域を汚したくないとスイッチが入ったスタッフもいる。社会に貢献していると実感することで、働きがいが生まれ、誇りを持てる」(粟田社長)。

丸亀製麺では、2012年から「まるごとまるがめ体験教室」という子ども向けの食育事業を行ってきた。各店舗で地域の子どもたちと一緒に、手打ちでうどんを作る取り組みだ。この教室を開くためには、普段の営業をしながら様々な準備が必要になる。 そのため、開催するかどうかは店長の判断に任せていたが、「自主的に手を挙げる店長が多く、400回以上開催してきた」とのことだ。 参加する子どもの人数は年に6千名を超え、同社の象徴的な社会貢献事業に成長した。

粟田社長は、「スタッフのモチベーションにもつながっているし、参加した子どもが将来大のうどん好きになるかもしれないという意味で、間接的にファンづくりにも貢献している」と手応えを話す。

そして、この「ファンづくり」こそが、コロナ禍を乗り切るために最も必要なことであると強調する。「コロナ禍の自粛で閉塞感を感じている人は少なくないはず。顕在化する前のニーズを見出し、需要を掘り起こし、ファンづくりを強化したい。利己主義ではファンはつくれないので、環境や社会問題などの非財務領域に取り組むことも有効な手法だと思っている」。

Simply For Your Pleasure.(すべては、お客様のよろこびのために)というミッションにFinding New Valueという一節を加えた。粟田社長は丸亀製麺をつくった当時を振り返り、未来に向かってこう語る。

「当時もうどん屋なんて全国にあった。でも、打ちたてのうどんをその場で茹で、提供する風景は、香川県の製麺所でしか見たことがなかった。この讃岐の本場で体験した感動を具現化して、広げていきたいと思い、うどんを作る工程を前面に出した丸亀製麺をつくった。単にうどんを提供するのではなく、感動を提供することで、口コミで広がっていった。コロナ禍でも感動を届け、新しい需要を掘り起こしたい。それが、明るい未来につながる」