環境経営

EA21企業のトップに聞く(1)
環境課題を自社へ引き寄せる
企業が生き残る条件

コムパックシステム株式会社
代表取締役社長 鈴木由彦

SDGsは経営に余裕のある大企業が取り組めばいい─。SDGsが社会に浸透してきた今でも、このような考えを持つ中小企業の経営者は少なからずいるだろう。しかし、一方で、地域に根差して生き残るため「SDGsに取り組むことは欠かせない」と考え出した中小企業の経営者もいる。国際的な課題と地域の事業をどう紐づけたのか。その一人に話を聞くため、長野県上田市を訪れた。

長野県上田市にある塩田工場

一般段ボールや輸出用強化段ボールなどを取り扱う総合包装企業のコムパックシステム。1950年の創業以来、70年に渡り上田市など地域の事業者を支える地場産業として成長してきた。

今、鈴木由彦社長が考えていることは、100年企業になるための戦略だ。「世の中がものすごいスピードで変化している。我々のような中小企業が世の中から必要とされるためには、環境や社会課題に取り組む企業でないといけない」。

その言葉通り、同社では2019年から経営にSDGsを取り入れた。環境、経済、社会の3つの領域で2030年までに達成を目指す独自の目標を設定。重点取り組みは次の3つだ。

CO₂排出量の20%削減(2018年度比)、産業廃棄物の排出量の20%削減(2018年度比)、労働生産性の向上に向け年次有給休暇の取得率向上。

この3つの中で、鈴木社長が特に力を込めたのがCO₂の削減だ。地球温暖化の解決を「究極の目標」とし、「異常気象が相次ぐ世の中では、企業がCO₂の削減に取り組むことは当たり前になった。経営コストが高いという理由で取り組まないのはあり得ない。資源を次の世代につなぐ責任として取り組んでいる」。

国際社会全体で気候変動への動きを強化している中で、その潮流の傍観者になるのではなく、「当事者」としてかかわることを社内外に明確に打ち出したのだ。

認証で社員の環境意識向上

そもそも同社が環境意識を持ち出したのは12年前にさかのぼる。そのきっかけは、エコアクション21の取得だ。鈴木社長は認証を取ろうと考えた理由をこう述べる。

「2000年頃からクライアント企業から環境に対する問い合わせを頂くようになった。環境に配慮した経営をしないと、これからはサプライヤーとして選ばれなくなると感じ、認証を取ることに決めた」

環境マネジメントの認証を調べていくと、エコアクション21以外にもISO14001があったが、「エコアクション21の方が、費用面、取り組みやすさでメリット感があり、中小企業にとってチャレンジしやすかった」とのことだ。

エコアクション21を取得したことにより最も変化したのは、「社内の意識が成長したこと」と言う。当初は鈴木社長のトップダウンで進めていたが、環境マネジメントのPDCAを回す中で、3~4年が経つと社員自ら、「環境負荷を下げるための提案」をするようになったという。そして、5年目以降は、鈴木社長の決断を待って行動するのではなく、自らが考えて動くように進化していった。

社内が変わったことで、社外への影響も好転し始める。同社が開発した環境貢献商品が「日本パッケージングコンテスト」で2013年から2015年の3年連続で、2017年には世界包装機構で「ワールドスター賞」を受賞した。認証を取得して10年目の2018年には、環境コミュニケーション大賞の優良賞に輝いた。こうした実績は地元新聞社などに取り上げられ、新規のクライアントの開拓にもつながった。

SDGsこそ未来に向けた経営戦略

主力の製函機

そして今、10年以上継続してきた環境経営から、SDGs経営へと舵を切り始めた。環境マネジメントの方針は変えずに、SDGsを起点にした経営方針に盛り込んだ。2019年には、SDGsに取り組むモデル企業とし「長野県SDGs推進企業登録制度」に登録、長野県知事から登録証が交付された。

「SDGsには17目標と169のターゲットが詳細に書かれている。これらのことに取り組むことが2030年に企業が生き残る条件になると思っている」と語気を強める。

社員のモチベーションを上げるために、毎月1回、「SDGsに関する改善提案」を社員から募集している。「2010年頃から月に一度行う定例会議で、社員から業務や作業、環境活動に関する改善案を受け付けていて、累計で3500件ほどの改善案が出された。昨年からこの改善案に、SDGsも加えた。SDGsの17目標のうちから一つ選び、うちの事業とのかかわりあいを提案してもらう。国際的な課題の解決につながっていると自分なりに落とし込んで働いてもらうことが狙いだ」。

鈴木社長は取材中、「世の中の変化」について強調する。「SDGsには大手企業が率先して取り組んでいる印象だが、中小企業も動かないといけない。地域の資源があってこそ、事業活動ができる。企業が数十年後も生き残り続けるためには、SDGsこそ経営戦略の根幹に据えなくてはいけない」。エコアクション21への取り組みが、企業の生き残りを賭けて大きく進化しようとしている。